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病院・クリニック市場の理解(医療業界への新規参入企業向けマーケティングの基礎 Vol.5)

  • 業種 企業経営
  • 種別 レポート

本記事では、医療業界への新規参入企業向けに、医療市場や直近の政策動向について解説しています。最終回は「病院へのアプローチのポイント」について記載します。

[過去の記事はこちら]
 第1回 病院・クリニック市場の理解
 第2回 病院を取り巻く経営環境
 第3回 医療政策の理解~国が推進する医療DXとは~
 第4回 医療政策の理解~2024年度診療報酬改定~

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第5回 病院へのアプローチのポイント

1. 病院の組織の特徴

病院の組織は多様な資格を有した専門集団で構成されています。病院の規模や性質に応じて組織の構造は異なるものの、一般的には診療部門(医局)、看護部門、医療技術部門(薬剤科、検査科、放射線科、リハビリテーション科、栄養科など)、そして事務部門といった機能別の職能組織で構成されています。病院内では、部門横断的な委員会やチームが存在していますが、基本的には各部門・科が独立して運営しています。

そのため、各部門・科は自らの業務に直結するサービスや製品には高い関心を示しますが、病院全体の運営や他部門の業務に対しては相対的に関心が低いケースが見られます。自部門・科で完結する製品やサービスは検討しやすいですが、病院全体や部門をまたいだ取り組み、サービスの導入は非常に慎重になる傾向があります。

2. 現場と経営者の視点の違い

新しい製品やサービスを病院に導入する場合、製品やサービスを利用する各部門・科の現場と経営者では視点が大きく異なります。現場の職員が興味や関心を持ったとしても、それを決済する経営者が意思決定をしなければ、製品の購入やサービスの導入はされません。現場職員と経営者の双方の視点を理解し、誰に何をアプローチするのかが重要です。

新しい製品やサービスを導入する際には、次の2つのアプローチが考えられます。①経営者(多くの場合は理事長・院長)に直接アプローチする方法、②現場職員にアプローチし、職員を通じて経営者に稟議を上げる方法です。

企業が病院に営業を行う場合、①の経営者に直接アプローチする方法が理想的です。しかし、経営者は多忙であることから、関係性のある業者などでなければ取り次いでもらえないことも多く、新規参入企業が直接アクセスすることは容易ではありません。特に規模が大きくなるほど直接的なアプローチは難しくなります。このような背景もあり、現場職員を経由して導入を図るアプローチになっているケースが多いように思います。

ただし、現場職員と経営者の視点には大きな違いがあります。現場の医療従事者にとって、最大の関心事は患者サービスの向上や医療安全といった「医療の質」にあります。そのため、自分たちの業務に関連する製品やサービスには関心を示す一方で、経営的な視点は必ずしも持ち合わせていません。

一方で、経営者が重視するのは投資コストや費用対効果、リスクの回避などの経営的要素となっており、経営環境が厳しさを増す中、これらの要素がしっかりと説明されない限り、提案は見送られる可能性が高くなっています。特に、現場職員が経営者に提案を持ち込む際、経営的な視点が説明できないことがよくあります。そのため、現場を経由して提案する場合は、性能面だけでなく、経営者に説明できる十分な材料を提供し、経営者が重要視する要素がきちんと伝わるようにすることが重要です。また、可能であれば、直接経営者に説明する機会を設けることが推奨されます。

3. 「エビデンス」と「制度・合理性を踏まえたストーリー」

病院の経営者に製品やサービスを説明する際のポイントを2つ紹介します。特に医療業界ではこの2つの視点は極めて重要な要素となっています。

「エビデンス」
医療業界は科学的根拠に基づいて行動する文化が強く根付いています。患者の命に関わる仕事である以上、医療従事者はリスク回避を重要視し、新しい試みには慎重な姿勢を取る傾向があります。そのため、新しい製品やサービスを説明する際には、実際に他の病院で導入し成功している事例や、明確なエビデンスを求められます。製品やサービスの効果を証明するデータや具体的な導入事例を提示することで、信頼性を高め、意思決定を後押しすることができます。

「制度・合理性を踏まえたストーリー」
医療業界は、制度や政策に強く依存している「制度ビジネス」であることが特徴です。病院の主な収入源は診療報酬であり、この報酬は国によって定められた公定価格に基づいています。国は政策を実現するために、診療報酬を2年ごとに改定し、その内容によって病院の収益構造が大きく左右されます。このような背景から、病院は政策動向をもとに政策に沿った戦略を検討し、実行するという習慣があります。
このような背景から、新しい製品やサービスの提案には、単なる利便性や機能性だけでなく、制度や政策面との整合性、それを活用することによる経済合理性を求める傾向があります。特に昨今の病院を取り巻く経営環境が厳しくなっていることから、これまで以上に経済合理性が求められています。企業が病院に新しい提案を行う際には、制度的な背景や合理性を踏まえたストーリー作りが重要です。

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本稿の執筆者

坂本 浩幸(さかもと ひろゆき)/株式会社日本経営 戦略コンサルティング部

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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